リスクマネジメントや危機管理などの分野においては、嵐吹き荒れる状況の中での瞬時の判断が求められる。

吉川英治は「宮本武蔵」の中で、兵法に限らず全ての理はそれを理論するのは平時の事で、実際にあたる場合は、いつも瞬時の決断を要すると書いている。

理論以前に判断する者の感性が重要であり、平時の理論にも感性は伴うが、その感性は緩慢ゆえに急場では間に合わない。知と訓練に研かれた者の感性は理論を超えた窮極に一瞬で達し、当面の判断を掴み取って誤らない、吉川英治は宮本武蔵の剣に対してこのような趣旨の論述をした。

私は、この吉川英治の文章が、急場で実践を重ねる弁護士の仕事の本質を適確に表現しているように思い、これを平時の理論に対する「急場の理論」と呼び、目指すべき姿としてきた。

急場においては、経験値とそれを支える知力がなければ嵐の中を迷走する帆柱が折れた舟のようになる。そのため、社会に生起する事件の中から種別を選ばずに風雨にさらされる広い経験値を養うことを若い頃から意識して、荒波の中の航海を何度も経験する必要がある。

雨が降れば根が育つ。突風が吹いても根は抜けない。根を育てながら嵐吹き荒れる中で流れを読み上昇気流に乗り窮地を脱する。それが知と訓練に研かれた急場の理論の窮極であり、当事務所の目指すところである。